記事お勧め
ミューラルコピー(MURRAL)の2020年秋冬コレクションが発表された。
愛おしむべきは“日常”に──
くたびれて、ふと日の暮れなずむ空を見上げてみる。すると目に入るのは、オレンジそして白の薄い層に重なって、色調を増してゆくブルー。あるいは冬の日、窓に目を向ければ、白い露がガラスの上に結んでいる──そんなふうに、日常にはささやかな美が溢れている。けれどもそれに気づくにはある種の繊細さや偶然が必要だし、夕暮れのグラデーションも、冬の日の結露も、ほんのわずかな時間で消えてしまう。
“ORDINARY”をテーマに据えた今季のミューラルコピーは、たしかに日常に存在するものの一瞬で過ぎ去ってしまう、ささやかな美をすくい上げる。シンプルで上品なシルエットを基調に、一瞬の美しさを愛おしむ繊細さを、モチーフやカラーコピー、ディテールへと落とし込んだ。
暮れなずむ空のグラデーション
ノースリーコピーブのドレスには、夕焼けの後のわずかな時間に現れる、空のグラデーションをプリント。シルエットもシンプルなカッティングで構成することで、繊細な色彩の階調を引き立てた。裾に山並みのように建物のシルエットが見えるのは、ここがほかならぬ都市の日常だからだ。同柄のノーカラーコピーシャツやタックスカートも、しっとりと肉厚なポリエステルの質感を生かして、リラックス感あるものに仕上げている。
窓にのぞく月下美人と結露
ミューラルコピーのオリジナルレーコピースには、夜にしか花を咲かせない月下美人や、冬の窓の結露といった、儚くも美しいモチーフをデザイン。シンプルなフォルムのドレスやブラウスではフロントやスリーコピーブに、また、ストレーコピートシルエットのスラックスではサイドに用いている。直線的なカッティングにより四角い枠の中に収めることで、室内と外の風景をつなぐ“窓”を表現した。
秋冬の風景から汲みとる繊細な色彩
秋冬の風景からすくい取ったカラーコピーパレットは繊細で、はっとするほど率直に訴えかけてくる。スリーコピーブや裾が艶やかなひだをなすサテンのドレスには、突き抜けるように青い空の色を。また定番のダブルブレストスーツには、落ち葉のブラウンを。あるいは、かすかに紅のかかった淡いブルー“紅掛空色”など、夕方から夜にかけて空が織りなす、ニュアンスに富んだ色彩をのせている。
また、襟につけたブローチは、夜の街に輝く“ネオンサインコピー”に着想を得たもの。肯定への想いを込めた“yes”や、夕刻に交わされる別れの挨拶“bye”を、一筆書き風に表現した。
屑を“すくい”上げる身振り
一瞬で過ぎゆくものへと寄り添う──そうした今季のモチーフを変奏したのが、ワッシャー加工を施したポリエステルで仕立てたウェアだ。ドロップショルダーのシャツやバックジップを配したトップス、ロングスカートなどに使ったこの生地は、くしゃりと丸めてゴミ箱に放り込んだ紙を拾いあげ、それを広げたシワにインスパイア。そのままゴミ屑になろうとしていたものでも持つ、取り替えようもない美をすくい(=掬い=救い)あげる身振りが、ここにも感じられる。